冬のはじまり なんてことないある夜の話
店を決める前からもう、その雨のようなものは降り始めていた
これはただの水だから大丈夫だよ 濡れない
肌寒かったけど どうしても外で暖かいものが飲みたかった
季節はずれのオープンテラスを指差す
返事は聞く前からわかっている 私たちはノーと言わない
雨も降っていたけど 私たちは濡れなかった
道ゆく人は傘をさしていたけど 私たちは濡れなかった
椅子はずぶ濡れになって少しかわいそうな気持ちになったけど
そう 私たちは濡れなかった
私たちは話す端からすべて忘れていった
けらけら笑ってすべて忘れた
道路を挟んで向かい側には大きなビルがたたずんでいて、大きな時計が少しずつ数字を変えていくのを神様みたいな気持ちで見ていた
ただの言葉あそびだから大丈夫だよ 傷つかない
そもそも 私たちが一緒にいるあいだ、誰も私たちのことを傷つけられないよ
わかるでしょう
干したままのお布団 大丈夫だったかしら